快楽
 少々大げさだったが、嘘でもないのだ。
 肉塊でなくほんの小さな肉片でいいのだが、情報に明るくないレグルにはこのうえなくおぞましい話に聞こえただろう。
「ほら、あんた。確かめてやれよ。そうすれば刻まれなくてもよくなるだろ」
 ザフィネは真実を折り混ぜながら巧みに騙して誘導する。
 地面のシヤを引きおこしたザフィネは、檻の際まで抱きかかえて移動すると、立たせて後ろから羽交い締めにした。
「ザフィネ、やめてっ・・・」
 消え入りそうな声だった。
 白い肌が薄紅く染まっている。
 シヤはレグルに目を向けることもできず、俯き加減にだった。
 長い睫がふるふると震えた。
「あはは、興奮している。持ちあがってきたよ。あんたに触られたがっている」
「違うよっ!」
「じゃあ私に触られたくなったのならーーー」
「ちがうっ、絶対違う!」
 シヤが激しく拒絶して、予想通りの反応にザフィネは笑っていた。
「あんたーーーレグルって言うんだっけ、やっぱ他人の男のモノに触るのは気分が悪い?・・・まあ、普通そうだろうけど。そのうえ、こいつはかなり普通でもないし、気色悪いってところに無理強いも悪いか・・・」
 拘束されながら溜息混じりのザフィネに耳元で言われて、シヤは傷ついたようだ。
 レグルもだった。シヤに触れることを気色悪いと言ったザフィネの、こいつは普通じゃないから、の部分が心に突き刺さった。
 このザフィネという女にまんまと操られているのをレグルは感じた。
 ザフィネの思い通りに動くのは腹立たしかったが、ザフィネは引く様子はみせない。外から届く位置に、シヤを立たせ続けている。
「イかせればいいのか?」
「ああ。優しくやってやってくれ、初めてだよ、きっと。イく悦びも知らないねんねだ」
 くくくっと笑っているザフィネに一歩も動けないようがっちり腕を捉え、体重を掛けて肩を覆い被されているシヤは、自由に動く首を必死に横に振っていた。
「いや、いや、そんな、こんなの・・・レグル・・・やめて・・・」
 ここまでくると諦めの境地だ。
「ああ、大丈夫だ・・・怖くないよ、シヤ。ひどいことはしない、気持ちを良くしてやる」
「でもっ、わたしは気色が悪い、レグルはわたしに触らなくていいっ!」
「・・・そんなことはない」
「嘘っ!」
「嘘じゃない、本当だ。だから・・・大人しくしておいで。すぐに済む。ーーーイかせればそれで終えてやるんだよな?」
 最後の部分は、ザフィネに向けてだ。
「ああ。約束するよ」
 ザフィネが、シヤを後ろから押した。
 シヤの体が柵にぴったりとくっつくほどに。
 覚悟を決めたレグルが、柵の前まで歩み出るとシヤの前で膝を付いた。
 そして両の掌を伸ばす。
「体中、触ってやってよ。いいとこがあちこちにあることも教えてやって」
 シヤの男の性器を掌で包み、優しくしごいてやる。
 やり方は、同じ男なのでどうすれば、気持ちがいいのかよくわかっている。
 すぐに熱を帯びて張り詰め、形を変えてゆくシヤの性器はそんなところまでも、白く美しかった。
 同じ男の持ち物とは思えないぐらいで、そのせいかザフィネが煽ったような嫌悪感はなかった。
「こら、口を塞がない。せっかくやってくれてんのに、いい声ぐらい聞かせてやるんだよ」
 ザフィネは、レグルの方もシヤに気があることを気付いているのだ。
 性格の悪い女は指を突っ込んでシヤの口を割ったので、湿った吐息がこぼれ落ちる。
 シヤもザフィネは自分をからかって遊んでいるのだと感じて、だから、言いなりになったら駄目だと奥歯を噛みしめて耐えていたけれど、こじ開けられしまうともう無理だった。
「・・・あ、・・・んっ、あ、いや・・・いや、だめっ、それ・・・ふ、あ、ひあっ・・・」
 シヤの甘い甘い声が、レグルを忘我させる。
 これまで知らなかった強烈な刺激ーーー官能から少しでも逃れようと身をくねらせるシヤの姿態は扇情的だった。
 乳房もない男の体を前に、レグルの中心も熱くなっていた。
 うっとりと白い腹に口を寄せた。
 肉感の乏しい細過ぎるほど細いしなやかな体に夢中になって唇を押しつけて、すべやかな肌の感触を舌で味わった。
「もう、だめ・・・やめて、レグル・・・苦し、い・・・おかしく、なりそう・・・も、ゆるしてっ・・・」
 身悶えしながら、シヤは懇願したから。
 もっとこれ以上も続けていたかったが、必死に理性を呼び起こしレグルは折れた。
 根本をきつく堰き止めていた指を解いてやった。そしてゆっくり元から扱きあげてやるとシヤは「ああぅ」とレグルの鼓膜を溶かすような甘美な悲鳴をあげた。
 高みに登り詰めて勢いよく白い液を跳ばし、果てた。
 力を失った体をザフィネも解放したので、シヤはその場にくずおれていった。
「いいこだ、うまく出来た」
 肩で呼吸を繰り返し、うつろになっているシヤの頬にレグルは掌を寄せた。
 我を取り戻したシヤがレグルの掌に頬をぎゅうぎゅうと押しつけた。
「シヤ、怖くなかっただろ?」
「・・・」
 シヤは、小さく頷いた。
「でもっ、・・・レグル以外は、いやだ。触られたくないし、こんなことされたくないっ」
「ああ・・・違う、そうじゃなく、本当は女の体の中にーーー」
「そういうのも、いやっ。誰もいらない、したくない。レグルだけしか、嫌!」
 予想以上にシヤの精神は子供なのかと感じたが、ぐすぐすと涙を再び流し始めたシヤに、今、これ以上この話題は無理そうだった。
「おい、レグル」
 どうしたものかと悩んでいるレグルの二の腕が檻の中から掴まれ、引き倒されて柵に体をしたたかにぶつけた。
 ザフィネだった。
 ザフィネは敵のはずだったのに、すっかり彼女に乗せられ、彼女のペースに陥っていた。
 警戒心も注意力も怠ったレグルに、レグルにしても引きはがせない剛力が体を檻の柵に縫い付ける。
「俺をどうする気だ」
 眼光鋭く睨んだレグルに、ザフィネは意外なことをした。
 柵越しのレグルの口にザフィネに自分の唇を重ねた。
 ねっとりと深く絡む濃厚な口づけに驚いたのは、シヤだけでなく、レグルもだ。
 ようやく抜けだし手の甲で口を拭ったあと、レグルはザフィネを睨みつける。
「そんな怖い顔して睨むなよ。さっき、言ったよな。こいつ、シヤは私の好みじゃないって。私の好みは、あんただよ。私の男にならないか?」
「は?・・・悪いが無理だ。断らせてもらう」
「なんだよ、即答なのか?悩みもしないのか?」
「ああ、悩む必要はない」
 不機嫌に答えたレグルに迫るもう一つの腕。
 ある意味、ザフィネにされたより驚いていた。
 白い腕が、横合いからレグル頬に伸びて引っ張られた。
 こちらの力はザフィネほどではなく、弱くはなかったが逆らえないものでもなかった。
 でも逆らわなかった。
 シヤがザフィネと同じように唇を重ねてきたのだ。
 今度は押しつけられるだけの可愛らしいものだったが、一生懸命さが伝わってきた。
 好きなようにさせて離れていったとき、シヤはレグルを見上げて怒ったように言った。
「レグルが誰のものにならないのは我慢する。でもザフィネの男になるなら、わたしの男になって!」
 怒って顔を真っ赤にしたシヤが真剣な目をして言った。
 ただし言われたレグルが気になったのは、真剣だが、どこまでの意味でシヤが言っているのか、ということだ。
 ザフィネが、はあと、これみよがしな溜息を吐いた。
 ザフィネも、シヤは意味もわからず対抗意識で言っているだけと思ったのだろう。
 困ったレグルは適当な返事も出来ず、シヤを曖昧な笑みを浮かべて見つめるしかなかった。



20160118

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