行為
 穏やかなまどろみのような心地は断ち切られた。
 もう少しだけ甘やかな時間をと望んでいたレグルを嘲笑うように事態は急変した。
 翌日、再びシヤを訪れたレグルを待っていたのは目を覆いたくなる光景だった。
 特別珍しくないことーーーでも、それがシヤであり、押さえつけられるようにされての行為の最中で、必死に逃げようと藻掻いている様子を目の当たりにしてレグルの心は凍った。
 行為とは、性交。
 相手は、ザフィネ。
 レグルよりも一回り大きい体をした女に、シヤがたちうち出来るわけもなかった。
 それでも必死に、腕を突っぱね押し返し、体を捻って相手の支配下からやっとの様子に逃げ出してもあっという間だった。すぐに捕まってのし掛かられるともう一度抜け出すことは出来なかった。
「いいかげんに、観念したら?往生際が悪いよ」
「嫌だよ、放せっ」
「はい、そうですかと放すなら端っからしないって」
「い、痛いっ・・・」
 シヤが苦鳴をこぼす。
 レグルは凍り付いたように光景を見つめた。
 まだ檻の中からは死角に当たる場所だったが、引くも進むも出来なくなっていた。
 相手を遠ざけようとして懸命に暴れるシヤがザフィネの顔に爪を立てたが、反対に手を噛まれるという反撃を食らってしまう。慌てて腕を引いたときには、シヤは、倍ほどもありそうなザフィネの体の下に完全に押さえ込まれていた。
「いやだよ、ザフィネ・・・こんなの・・・」
「嫌だと言われても、こっちだって困るんだよね」
 ふんと鼻を鳴らした女が、続けて何かを言おうとしていたが頭を上げた。
 レグルはバレたと感じたが、ザフィネの視線を追ったシヤも気付くことになった。
「あ、あ、いやっーーー」
 顔色を変えたシヤが悲鳴を上げた。それまでとは比べものにならないほど激しく暴れていたが、通用はしなかった。
 ただその必死さが哀れさを誘った。
「もう、暴れんなよ、このガキが」
 ドスを利かせたザフィネが強くシヤの急所を掴んで、うぐっと白い喉が仰け反ってこわばった。
 そのあとはやわやわと弄ばれて、震えた。すぐに手の甲が口に当てられ、せめてものシヤの抵抗だった。
 このままここにいてもレグルの出る幕はなかった。立ち去ろうとしたが、ザフィネが止めた。
「べつに虐めてるわけじゃないだろ?」
 レグルは答えられなかった。
 シヤが嫌がって泣いているなら虐めだとも感じたが、愉しめばいいのではという思いがもっと強い。
 行為の拒否権は女が持っている。女が許すなら男に拒む理由がないーーーとはレグルの常識だったが、シヤには通じないもののようだ。
「こいつはいつまでもガキで、駄目なんだ。その気にならない。ならないだけならまだいいんだけど、無茶苦茶をするんだ。だから教えろという言いつけがこっちに回ってくる」
 それが、どこか冷めた調子の女がシヤを押さえつける理由のようだった。
「なんか、言いなよ」
「なら、教えてやればいい。おまえなら適任だろう」
 嫌みや皮肉ではない。
 ザフィネは大柄で、覇気に満ちているとても魅力的な女だ。
 新生ではあるが、外の世界にいるなら広い縄張りを治められるような力の溢れる存在だ。男にもてないはずはないから、経験だって豊富だろう。
「でもさ、私の好みじゃないんだよね、この子。あーーー泣き出した、あんたが冷たいことを言うからだよ」
 悲しげなすすり泣きが、レグルにも届いていた。
「ああ、あ。いいとこまでいったのに萎えちゃった。あんたの所為だな・・・。おい、あんた、いい加減、姿出せよ。独りしゃべりしているみたいで感じが悪い、出てこいよ。あんたはここには入れないけど、私も今は出られない。主もいない。隠れている意味ないだろ」
 レグルもずっと一方的に身を隠しているのは卑怯な気がしたから、一歩踏み出し姿を明かした。
 シヤが首を精一杯反らしてレグルを見て、涙の溢れる金の目にわずかな喜びの色を載せた。
 すぐにザフィネに戻すと、真剣になって訴えた。
「お願い、ザフィネ。もう終わりにして。レグルが来ているのに、いやだ。お願い・・・」
「おまえ、この男に惚れているのかい?」
 シヤの頬がカッと紅く染まった。首筋までも色づいたのが返答だった。
「馬鹿だね・・・」
 呆れたようにザフィネが言ったが、身の詰まされる思いになったのはレグルも同じだ。
 ただし、レグルは無表情に立ち尽くしている。シヤのように感情を表には出すことはない。
「なら、彼に触ってもらうかい?」
 シヤが目をまん丸にして驚いていた。
「ああ、それがいいかもね」
 ザフィネは自分で言って、勝手に自分で納得した。
「待ってっ、ザフィネ!」
「待て、何を言っている!」
 これにはレグルも慌てずにいられず、声を荒げた。
「ちゃんとイけるのか確かめる必要があるんだ。イけないならそれなりの治療をして、正常にしたいからってことでーーー」
 つまらなそうな顔でザフィネは説明する。
「わかるだろ、こいつは珍しく、貴重で、値段も高いんだ。だから、主はこいつの子を是が非でも作りたいわけだ」
「でもまだ本人はーーー」
 シヤに涙目に見つめられるレグルは、なんとか止めさせる方向で口を開いたが
「知っているか、あんた。生殖能力がない場合でも方法があるらしい。体を刻んで、肉塊からこいつそっくりのいくつもの肉人形を生み出すらしい。いつまでも駄々をこねていると、この子もその方法になるかもな」
20160118

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