第七章

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「ああ、そうだ。こいつは間違いなくいい金になる。それを六等分だ。こんないい話、もちろん断ったりしないよな?」
にやにやと笑う男の表情が不愉快だった。
金のため欲のために、共に竜を狩るという契約を反故にしただけでなく、仲間となった者を殺して平気でいる様子が腹立たしかった。
これにこんな風に取り決めを破るぐらいなら、ツヴァイにはもっと他に破りたい方法があった。
だから答えた、はっきりと。
「断る」
「冗談ーーー」
「冗談じゃない。竜を横取りするという話なら、俺が丸ごと頂くことにする。だから、返事はーーー断る、だ」
無言に若者を襲った蛮刀がツヴァイに向かって振り上げられていた。
攻撃を難なく交わしたツヴァイも剣を抜く。
「その竜は俺が貰う」
宣言したツヴァイの表情と全身から放たれる殺気に、紛れもない本気なのだと知った男たちも次々に武器を手に取っていた。
「あんた、予想以上に馬鹿なようだな。ーーー独り占めだなんて欲が深すぎる、そんな欲を掻くのは身を滅ぼすだけってことをおれたちが教えてやるっ!」
四人の男たちの形相も必死だった。
腕が立ち、敵に回したくないと考えていた者が、交渉決裂で敵となってしまったのだ。
男たちには予定外の最悪な展開だったが、ツヴァイにとっては真逆だった。
この四人ならなんら問題はなかった。
殺したって、正当防衛だと思った。
一緒になって横取りするのも規範に反した行動であるのだから、ツヴァイの前に突きつけられている二者選択はどちらも正しいことではない。
だったら、自分にとって有利な不正を行うだけだった。
しばらく目的を一緒にした仲間でもあった四人を倒すことは、ちくりと心が痛んだが、翌日には吹っ切っていられそうだった。
善人を気取る人間ではない。そこそこに汚れ仕事もしたし、犯罪を近いことだってしたことがある。
聖人君子を気取るつもりは全く無かったが、黒竜の色男の大切な相手の竜を奪うことだけは心が咎め、苦しくてたまらなかった。
でもこの竜を独り占めにすれば、すべては解決することになる。
ツヴァイの剣は、襲いかかってきた交渉を迫った男を袈裟懸けに斬り下ろし、返す剣でもう一人の腹を割った。
残りは二人。劣勢に引き攣った顔の二人は、破れ被りに襲ってきたが、ツヴァイの剣技の前にあっさりと沈んだ。
「悪いな。未来に遺恨を残したくないんだ」
ツヴァイは地面でのたうって呻いていた四人に留めを刺すと、苦痛から解放した。
これで生きている人間は一人。運び手はツヴァイだけになっていた。
これでももう担架を運ぶことはできないし、小さいとは言え、雄牛ほどの竜を人間一人で移動させることなどは不可能だった。
でもツヴァイには方法があった。
このあとの予定を遂行するための案はすでに浮かんでいた。
剣を鞘に戻したツヴァイは担架に戻ると、その傍らに跪いた。
布でぐるぐる巻きに縛られ身動きできなくされ担架に括られた竜は、話し合いの際、地上に置かれたときの振動で、意識を取り戻したことをツヴァイは知っていた。じっと大人しくしているが、竜は自由になる目を時々開いて瞬きする。
賢い竜は、人間の様子を窺っているようだった。だから、竜は自分の周りで何が起こったかわかっているのだろう。
竜は人間の言葉も理解していることをツヴァイは知っていた。
だから、話しかけた。
自分たちが痛めつけた小さな竜にーーー。
「俺の名はツヴァイだ。どうか、俺の言葉を聞いて欲しい。酷いことをしてすまなかったと思っている。今更で、許してもらえるとは思っていないが、少しだけ償いをさせて欲しいんだ」
竜はツヴァイの静かな言葉が始まってから、目を開けていた。
「ーーーきみがさっきまで着ていたドレス・・・銀色の布地で真珠が縫い付けてあった洒落たドレス。あれは、色男の黒竜の旦那が街で買った物だね。それを一緒に買ったから知っているんだ。ちなみに、俺は小柄な少女用の衣装を探していると聞いたから黄色いのを勧めた。・・・悪かった。きみには色男の黒竜が選んだ物こそよく似合っていたね・・・」
アドリィの気を少しでも引くためにツヴァイは、笑顔を浮かべ穏やかに話す。
今は敵意も悪意もないのだという気持ち伝わることを望みながら、精一杯話し続けた。
「・・・事情があった。息子のために竜の肉がどうしても欲しかった。そうすれば息子の病が治るかも知れないと聞いて、必死になっていた・・・。言い訳にしかならないけどね・・・。でも、今、俺はきみを黒竜の旦那の元に返したいと思っている。嘘じゃない。本気だから、人間を殺した。彼らは邪魔するからーーー」
竜は大人しくツヴァイの話を聞いているようだった。
「勝手なことを言っているが、どうか俺を信じて欲しいんだ。きみを黒竜のところに連れて行きたいけど、俺一人では、竜のきみを運ぶことはできないんだ。
あまりゆっくりしていると黒竜を追い払いに行っている者たちが戻ってきてしまう。だからその前に、ここから動きたい。それにはきみの協力が必要になる。竜から人間の少女の姿に変わってもらえないだろうか????そうすれば、抱えて移動することができる」
話は聞いているようだけど、何の反応も返らなかった。
ツヴァイは不安になっている。
このままではこの傷付いた竜を返せない。
拘束を外して自力で動いてもらうことも考えたが、弱ってよたよたとしているところにリーダーたちが戻ってきたら、大変なことになるだろう。
逃げ出した竜を殺すと言い出すかもしれない。
確実に、黒竜に返したかった。
竜の気配を追えてしまうから、安全な場所に隠れて黒竜が来るのを待つという手段は使えない。だから黒竜に直接ーーー。
これ以上、竜たちを傷付けたくなかった。
「竜の肉が必要な俺の息子はリンドって言うんだけどね。リンドを助けるために、きみを殺して、黒竜を絶望に突き落とすことがどうしても納得できなかった。きみと息子の存在が被ってしまうんだ。黒竜がきみのことをとても大切に思っていることーーーきみは黒竜の掛け替えのない相手なようだね。それだって、まるで自分を見ているようだ。愛情の種類は違うけど、俺と息子だと感じた。だから黒竜にも不幸になってもらいたくない。ーーー無理じゃないんだ。ただ、きみの斬られた尻尾・・・あれを俺に、俺の息子にくれないか?俺には、それで十分だから、きみを黒竜に返しても困らない。だから、心配しているだろう黒竜の元にちゃんと送り届けるから・・・」

20170827

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