第六章

1
「アドリィは一緒じゃないのか?」
それがガーレルの口癖になりつつある。
「ええ、違います」
ふうと溜息を吐いたネーザリンネが少し面倒げに言った。
「誰にもそういう気分じゃないときがありますから・・・」
性格が穏やかなディーメネイアは困ったように言葉を濁していたが、キリングははっきり言った。
「黒竜さまのように無理矢理連れ回したりはしないのよ、普通。相手の気持ちを察するってこと、わかる?やっぱり、わからないだろうなあ〜」
やはり腹の立つ女だと、苛っときたが、いいのか悪いのか慣れつつあるのでガーレルは聞き流して話を進めた。
「本当に、寄って集って、苛めて仲間はずれにしているわけではないんだろうな?」
心配そうに言った。
「いい加減になさってくださいますか、黒竜さま。そう疑われるなら、黒竜さまが一緒にいるようにしたらよろしいのでは?」
それができるなら、していると思った。
できないから気を揉んでいるのだから。
「何かを考え込んでいるようで近づきづらい空気がある・・・」
「わかってらっしゃるなら、私たちに会う度、難癖付けないでくださいますか」
「でも、いったいなにかに悩んでいるのかしら・・・」
「あんなことがあったんだもの。思い悩んでいると言ったら、黒竜さまのことなんじゃない?」
口にしたのがキリングでも、理由にされるとなんだか嬉しくなってしまうガーレルだったがすぐに、突き落とされた。
「いろいろ考えて、嫌になったとか、後悔してるとか。女たらしなとこがやっぱり許せない、不潔ーーー。それとも、俺さま風を吹かせてる自分勝手なところがうんざりしちゃったってのもありかも。ちょっと考えただけで理由はいっぱい思い浮かぶんだから、仕方ないわね〜」
ガーレルをからかって遊ぶことを愉しむキリングは、むふふふっと笑っていたが、ネーザリンネが諫めていた。
「よしなさい。意外に小心な黒竜さまよ、なぜだ、どうしてだ、理解できないーーーと説明を求められて付きまとわれることになるでしょ。厄介なことになるからやめて!」
この三人の女たちに掛かると、黒竜王の威厳もへったくれもなく、ぼろくそに言われてしまう。
でもこれもずいぶん慣れた。
口答えしても勝てないのでなるべく無視することも憶えた。ガーレルもここに来て、日々成長中だった。
それはいいとして。
アドリィだった。
名前には力がある。その名をこうしてたびたび口にしているから、誰かが自分のことを話していることを感じとっているだろうに、アドリィの態度は変わらない。
ガーレルのことではなくても、なにかを思い悩んでいるのは確かだった。
近づいて声を掛けると、可愛らしい笑顔を浮かべてガーレルを迎えるが、しばらく話をして、話題が途切れたとき、アドリィはすぐに再び物思いに耽る。思考の世界に沈み込む。
小さな頭でずっと考えていることがとても気になっていたが、竜王という上位の竜の力で無理矢理精神を覗くような真似はしないと決めたのだ。
また命令のような形で言わせたくもなかった。
だからガーレルは、気を揉みながら待つしかない。
自分にも、女たちにも話さず一人悩んでいる理由がアドリィの口から明かされるのをじっと待つだけだった。
女たちと別れ、ガーレルはとぼとぼ木立の中を歩く。
こんな事態になったのは、ヴァルネライラが去っていってからだった。
紅竜に戻って飛び去ったヴァルネライラに、これ以上引っ掻き回されずに済んで良かったとほっとしたのもつかの間、アドリィは異変を起こした。
とはいえ落ち着いていて、困ったり怯えている様子はない。ガーレルに苛ついたり怒りの表情を見せることもない。
それどころか相変わらず食べちゃいそうなほど可愛くて、ガーレルをうっとり見とれさせるがアドリィの心はそこにはなく、囚われたように何かを考え込んでいる。
一度、聞いたのだ。
「どうかしたか、困っていることでもあるのならーーー」
「ううん」とすぐに首が振られた。
そして、
「わたしは今まで現実に目を瞑って、考えずに生きてきたの。それでは駄目だと気付いたから、いろいろちゃんと考えたいなって・・・。それが本当に生きているってことだよね」
笑顔で言われて、そうか、だから今、考えているのか、アドリィは賢いなあ、と納得したのだが翌日には不満になっていた。
考えことに没頭するアドリィと話をすることが減り、ガーレルが少しでも気を惹こうと喋り続けていると、アドリィは目を離したちょっとの隙やタイミングを逃さずそっと離れていってしまう。
ガーレルにとって寂しい限りだった。
もうこうなったら、シルドレイルを探す。
女たちよりマシだった。
シルドレイルを見つけて、心のもやもやを、愚痴をぶつけるしかないと、森の中央部に向かった。
玉座のある広間を目指していたが、そこにいる確証はない。
気ままに森の中を動き回っているシルドレイルだったが、気配を探ればどこにいるかは瞬時に知ることが出来た。
でも、しつこく追いかけ回していると思われてもいけないのでアドリィにだってしないことだった。
シルドレイル相手に居場所を探るのはしゃくに障るので、ガーレルはぷらぷら歩くことにした。



どれほども行かないうちにあっさりで出くわしてしまった。
アドリィでなく、シルドレイルにだ。
ガーレルは込み上げるままに溜息を吐いて、見逃さなかったシルドレイルが柳眉を吊り上げる。
「怒るなよ・・・おまえを捜していたんだ。あんまりすぐに会ったから、つい・・・」
「おまえを避けているあの娘ではないことに不満だったか?」
20170402

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