第二章

4
間違ってはいない気がするのだ。
自分にあったあり方、考え方、そして生き方。
無い物をねだっていてもはじまらない。普通の竜になりたいという願いが叶うものではないなら、ただ自分にだって出来ることを静かにするしかないはずだった。
でも、卑屈だ言われてしまえばきっとその通りで、目の前の相手には永遠に伝わらない思いだとは感じた。
黙りこくってしまったアドリィにガーレルはたっぷりと困っていた。
そして困りすぎて、狼狽したガーレルはこのとき、早々にいけないことをしていた。
少し前に精神の干渉をしないようなことを威張って言っていたけれど、あっさりと前言を破った。
操作はしていないけれど、触れて読み込んでいた。
だから、アドリィは理解した上で拒んでいないことを知ってーーー笑顔になっていた。
不安は解消されたので。
杞憂だとわかって、晴々、満面の笑顔をガーレルは浮かべた。
ガーレルもとても嬉しいのだ。これで目の前にあった問題は霧散した。
ならガーレルとアドリィの二人旅の前に大きく横たわっていた難題はなくなったのだ。
アドリィの考え方に従うなら、ガーレルはもう自分は後ろめたさだって感じなくたっていいのだと知れたのだから。
強く、横暴な黒竜は楽天家でもあった。
喜びのあまり、思わず小さな体を引き寄せむぎゅっと抱きしめる。
万感の思いを込めて。
さすがに圧し潰すほどの力は込めていなかったはずだけど、アドリィが抜け出そうとじたばたと藻掻きはじめたので、慌てて腕を解いて解放しなくはならなかった。



可愛い。
ひどく可愛い。
可愛いだけでなく、綺麗な色合いだと感じた。
そして本体は、虹のようにいろいろな色が映り込んで輝く透明な鱗が美しい小さな竜だった。
透明な鱗の底をよく見ると淡い赤色が見える。それが肉色だと感じると背中がぞわぞわするような心地がする。嫌な感じではなく、むしろ逆だ。
アドリィが人間の姿で現れたガーレルが、黒竜だとわかったと同じで、ガーレルもアドリィの竜の姿を見ることができて、すぐに二つの姿にうっとりと見とれた。
人間でいても少女の姿に過ぎないアドリィは、竜の姿でも子供のように小柄だったけれど、角が生え始めていた。
面白い。
その大きさの、生まれて間もない本当の子供なら角など見られることはないはずで、見た目のような子供ではないのだ。
通常にあるはずの均等を崩した不思議な存在だった。
天恵の存在を、ガーレルは識っていたけど実際に会ったことはなかった。
もしかすると、覚えていないだけで食べたことがあるのかもしれないとは思った。
だから自分はこれだけ恵まれた体のかもと。
でも、もう今は必要ない。
天恵という彼女はそうした存在だけど、成長期を終えたガーレルは今さら食いたい、などとは思っていない。だけどひどく惹かれている。
なぜ、惹かれるのだろうと出会ってから何度も考えていた。
やっぱりこれだろう。
貴重なほど珍しくて、不思議だから。
生き延びた天恵など、本当に稀な存在で、他にはちょっと無いほどのお宝だ。そのうえ薄氷のような繊細な空気感がとても可愛いのだから夢中になっても仕方がない。
話をしても面白い。言葉少なくおとなしいけれど、ときどき自分には思いもしないことを言って良い。
アドリィは、ガーレルとまるで違う世界観を持ち合わせ、その中で生きている。
自分にはない物を山ほどに持っている彼女。
いろいろなことを全部全部ひっくるめて、まとめてみるとこうなった。
絶対、アドリィを手放せない。
ぐふふっと込み上げる。ものすごくいい物を自分は見つけたのだ。
また他の方向からも考えてみる。
こっちもなかなか失礼で到底本人に話せることではなかったが、ガーレルは断言できると思った。アドリィに女性的、雌性的な魅力はほぼ無い。
ということは、ガーレル自身、生殖時期を迎えている雄的な下心的に求めているわけではないということで、純粋な好意で興味なのだということになる。
ガーレルにとってこんな風に何かに気持ちが囚われるなども初めての経験だった。
よくわからない物を集めていたり、埋もれた旧時代の遺産を掘り起こすことを趣味にして渡り歩く竜など変わった行動をする仲間をいろいろ知っていた。
ガーレルにはその意味も熱意もまったく理解できないのだが、理解できないと率直に伝えると、恥じ入るどころかなぜか鼻で笑い、憐れだという目を向けてくる同輩ーーー。
いつもどこか悔しい、腹立たしい気持ちを味わっていたが、これはつまり、それなのだ!
自分も、ついに得た!
理解できない執着心。
アドリィのお陰で、自分の新しい一面さえも見いだすことが出来た男は丸ごとすべて楽しくてたまらない。前途洋々、しあわせいっぱいで気分は弾けるように軽い。



20141225

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