第七章

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女たちは特にいろいろとアドリィの世話を焼いて、首飾りや腕輪までも用意して着飾ってくれていた。
眺めるだけだった物を身に付けて、なんだか急に自分がこれまでとは違うものになったようで、アドリィの心臓はどきどきと高鳴った。
姿は成長できていなくても心の中はちゃんと歳を重ねている。だから小さな背丈の自分には似合わないような大人びた出で立ちをするのが嬉しいのだと気付かされた。
でも、目の前にいるガーレルがどんなふうに見ているのか気になった。
ガーレルはなぜか無口だった。それどころかまともにアドリィを見ようとしなかった。
小さな自分など背伸びしてに着飾っていても滑稽なだけで、ガーレルは呆れているだろうか?
その通りだとすぐに思った。
だからネーザリンネたちと喋っていただけで、アドリィには何も言わないし、言いにくいことだから答えてもくれないーーー。
浮かれてしまっていたことが恥ずかしくなったアドリィは俯いていた。
ガーレルにもアドリィが気落ちしたことが伝わっていた。
さすがに自分の態度はよくないと感じるガーレルが、意を決して口を開いた。
「・・・いや、なんていうか・・・驚いている・・・。そういう恰好もあり、なんだなっていうか・・・何かが変わったわけでもないのに、着る物で雰囲気が大きく違ってしまうんだなって・・・」
上手く言えなくてガーレルは心の中で唸ってしまったが、最後にはっきりと言うことにした。
「悪くはない。でもあいつらを褒めるのは嫌だった」
まだ言葉が足りない様な気もしたが、顔を上げたアドリィは愛らしい笑顔に戻っていて一安心した。
でもそうなると、ガーレルの中に一つ気になることが生まれた。
「・・・もしかしてこういう雰囲気の方が好きだったか?・・・おれが買ってきたのは子供っぽかったか?・・・そう、だよな・・・あれは・・・ないか・・・」
アドリィは生きてきた時間の長さ的に考えると子供ではないのだ。
でも見た目にイメージを優先で着る物を選んでしまったことは短絡的で無神経すぎたのかもしれないという思いが湧き起こり、今度はガーレルが悄然と沈む番だ。
「そんなことないっ!・・・これは、やっぱりあんまり似合っていないと思うから」
「いやーーー」
「ううん、似合わなくても嬉しかったのは、こんな雰囲気がもっと似合うようになりたいなって思ったから。だからそのためにももっと大きくなりたい、大人っぽくなりたいって思った・・・。目標ができたなって・・・」
ガーレルのための言葉ではない。アドリィの本音だった。
刺激を与えられたから、新しくこういうことも感じられたのだ。
「そうだな・・・。でも大きくなるのはいいことだが、あとは好みの問題だしな・・・」
やっぱりどこか歯切れの悪いガーレルの好みは、きっと可愛い雰囲気なのだろうなとアドリィは思った。
ガーレルの好みーーー。
それだってもっといっぱい知りたいなと思った。
好きなこと、反対に嫌いなこと、どんなことを喜んで、なにをすると怒るのか。
考え方、考えていることも、自分はまだほとんど知らなくて、だから、どうして自分のことを好きだって言ってくれるかだって謎だった。
ガーレルについてもっとよく知りたい。
詳しくなりたい。
それには一緒に時間を重ねるしかないのだろう。
ガーレルを横から見ていて、自分で感じとるしかないことだった。
そのためには、きっと言わなくてはならないことだと思った。
重要で、言わないでいるのは卑怯だとも感じたから、打ち明けることにしたのだ。
「・・・紅竜さまが教えてくださったことがあるの。わたしの中にも卵の卵がちゃんとあるって。初めて竜の姿になってみたとき、わたしも、本当だ、あるんだって感じた気がした・・・」
突然の話にガーレルは驚いていたが、反応を返す前に話は静かに進んでしまっていた。
「でも、もうわからなくなった・・・」
「なにが?・・・」
「卵の卵の存在・・・」
「・・・」
「変な話をしてごめんなさい・・・」
「・・・卵については、おれに語れることじゃないが・・・怪我をして体力を落としたことに関係があるって可能性はあるんじゃないのか・・・?」
切なげな瞳で見つめられるとガーレルも一緒に悲しい気分になってしまい、わからないなりにも考えてみた。
「感じたものがなくなった・・・その間に起こった事が作用しているとしたら、やはり体調の変化だろう・・・」
喋りながら、ガーレルはいろいろな疑問を納得していた。
アドリィが、急に竜になろうと考えたのはヴァルネライラの仕業で、あいつが言っていた女同士の話はこういうことだったのだ。
ヴァルネライラがアドリィを駆り立て、その結果、アドリィは今、気落ちしている。
でもそこにあったのは悪意とは思えなかった。
アドリィにとって良い情報で、だから奮闘した。
消極的なきらいのあるアドリィを前向きに変えたのだ。
動き出したアドリィは必死すぎるほどの全力で、危なっかしくて目が離せないけど、全力で生きてゆくことは決して悪いことではないと感じるからーーー。
「ーーー今は、そんなに慌てなくてもいいんじゃないのか?檻から出たきみは、やっとよちよち歩きをしはじめたばかりだ。それなのに一度に欲張りすぎだと思う。ただでさえ、人間と戦うなんていう大冒険をしたんだ。しばらくはそれで満足して、他のことは考えず大人しくして回復を第一に考えなさいってことじゃないのかな、と気がするぞ。・・・卵については、おれではよくわからないが、こうは言える。たとえば、腕を喰い千切られて傷の回復が悪かったとき、シーズンが来ても、一切そういう気にならなかった。だから、雄性が体調によって発情の状態が変わるんだから、雌性だって・・・」
とうとうと語っていたガーレルもそこで、はっとした。
「ガーレルのそういう気持ちと、同じってこと・・・わかった」
純粋な瞳に見つめられると嫌な汗が噴き出してしまう。
「ーーー変なことを喋った、その話はもういい、どうかさっぱりと忘れてくれ!」

20171029

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