第一章

1
キュロロロロン・・・リュリィルルルルン・・・。
ルキュキュキュキュル・・・リロロロロォンーーー。
不思議な音だった。
動物の鳴き声だろうか。
でもあまり聞き慣れないものだった。
草むらから聞こえる軽やかな虫の音のようなーーー。
違う。
もっと力強い音で、楽器の弾かれた弦が奏でるようなーーー。
ぜんぜん違う。
ひどく繊細で小さな鈴のような音から、低く重く地を這う風の唸り声まで、生きもののように変化する不思議な音だった。
まるで唄だった。
唄なら、さまざまに種類があるはずーーー。
優しい唄、力強い唄、悲しい唄。嬉しい唄。
その通りで、その音もときとして心に伝わってくる場所が異なっていた。
だからそう、やっぱり音は唄で声だった。
日によって、音程やリズムが変わる唄。言葉はない。
不思議な不思議な唄だった。
ゆっくりなとき、早いとき、小鳥のさえずりにも似たとき、獰猛な獣じみたとき。
怒っているようなとき、哀しんで聞こえるとき、楽しそうに聞こえるときも、ほんのときどき。
人間の唄ではないのは唄っていいるものが人間ではないから。
その唄はいったいどこから、誰がーーー何が発して、聞こえてくるのだろうか。

それは、小さな少女の細い喉から聞こえていた。
白い少女だった。
白銀の髪に、白い肌の細く小さな少女だった。
色素の薄い少女の大きな瞳にも強い色味はなく、まるで鏡のようだった。
まわりの色を映し込む鏡だ。ただし、暗い瞳孔が縦に長く入っている。
人間のようでも、人間でありえない少女が可愛らしい口を小さく開いて、唄っていた。
人間では出せない不思議な声で、空を見上げながら唄っていた。
どこまでも広く、青く澄んだ空だった。
狭い檻の中に座っている少女は独り、唄い続けていた。
今日は朝からずっと唄っていた。
喜びの唄だった。
なぜって、風が騒ぐから。
今朝はいつもとは少し違っていた。
風は浮かれて陽気で、はしゃいでいると感じた少女が選んだ唄が嬉しかったのか、さらにはしゃいで、もっともっとと繰り返した。
檻の中で自分は喜びの唄をどうして唄うのだろうと、少し変に感じたけど、ひどく晴れた空を見ていたら、それでもいいと思った。
素敵な空だった。
なにかいいことがありそうな、そんな予感さえ感じられるような空だったから。
でも少女は、なにかいいことを本当に信じたわけではなかった。
なにか、いいことなんてーーー。
なにが、いいことなのかも少女にはわからなかったのだ。
でもその日、たぶんそれーーーなにかいいことは、一人の男の姿をして少女の前にやって来た。
風たちがはしゃぐような大きな力が現れて、小さな少女の運命は変わったのだ。
少女の運命は、大きなものに引っ張り寄せられてそれまでとは別の仕組みに取り組まれ、違った意味を持つ歯車の一部になって、ゆっくりとゆっくりと回りはじめたーーー。



20141016
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